大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(秩ほ)1号 決定 1982年5月01日

被告人 丸山健

昭二七・七・一九生 会社員

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、別紙添付の抗告申立書に記載されているとおりである。

一  所論は、まず、原決定及びそれに続く監置処分の執行は憲法に違反する法廷等の秩序維持に関する法律(以下単に「本法」という。)に基づいてなされたものである旨主張するが、本法二条による監置決定が所論指摘の憲法各本条に違反するものでないことは、最高裁判所昭和三三年一〇月一五日大法廷決定(集一二巻一四号三二九一頁)が説示するところに照らして明らかであるから採用の限りでない。

二  次に所論は、本法二条一項の「裁判所の面前その他直接に知ることができる場所における行為」は、誰が如何なる具体的行為をなしたか当該裁判所に明白に現認し得る場所に限定して適用さるべきである旨主張するが、本法二条所定の妨害行為は、本件のごとく庁舎外の公道で、拡声器を通しての音声によるものであつても法廷にいる裁判所又は裁判官が五官の働きにより直接知り得るような行為はこれに含まれるのであり(最判昭和三一年七月一七日、集一〇巻七号一一二七頁参照)、原決定が認定した法廷内に聞えた音量の度合及びそのシユプレヒコールの内容に鑑みれば、本法二条一項を適用した原決定には、憲法三一条、三七条一項に違反した違法は存しない(なお、その審理妨害行為が何人によつてなされているかということまでも、当該審理をしている裁判所又は裁判官が直接知り得ることまでは必要とするものではない。)。

三  所論は、抗告人の本件所為が、拡声器を通したとはいえ、裁判所庁舎の窓と法廷の扉を隔てた所で法廷には殆んど聞こえない場所で行われたもので審理の具体的妨害とは言えないもので、その内容も裁判所の威信を害するものでもないことを前提として、原裁判所の抗告人に対する措置は憲法二一条違反及び法令違反をも主張するが、抗告人は、本件当時法廷が開かれていたことを承知しながら、拡声器を用いて特定の裁判官名を挙げて原判示内容のシユプレヒコールを繰り返していたものであつて、抗告人の所為を本法二条一項所定のけん騒にあたる不穏当な言動で、裁判所の職務の執行を妨害するとともに裁判の威信を著しく害した旨認定した措置に法令違反はなく、また憲法二一条違反の主張は原認定と異つた事実主張に立脚するもので前提を欠き採用の限りではない。

四  所論は、抗告人に対する原裁判所の措置は本法二条所定の制裁権を濫用したものであると主張するが、抗告人の原判示審理妨害行為の手段、態様、シユプレヒコールの具体的内容に鑑みれば、原裁判所が、抗告人に対し監置五日の裁判をなした措置に制裁権を濫用した違法があるとは認められない。

五  以上によれば、本件抗告は理由がないから、法廷等の秩序維持に関する規則一八条一項により、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 時國康夫 下村幸雄 中野久利)

参考

(原審決定の要旨)

主文

本人を監置五日に処する。

理由

(事実の要旨)

本人は、昭和五七年四月二三日午後三時に東京地方裁判所八王子支部第三〇一号法廷で開廷された当裁判所の被告人若林美智子に対する覚せい剤取締法違反被告事件の審理中、同日午後三時五分ころ、同法廷に面した同裁判所同支部南側歩道上において、自動車に設置された拡声器を使用して本人が音頭をとり、他二〇名位の者とともに、右法廷内に聞こえる音量で、「強権的訴訟指揮を許さないぞ。」「和田裁判長を糾弾するぞ。」などとシユプレヒコールを行い、もつて、けん騒にわたる不穏当な言動で、裁判所の職務の執行を妨害するとともに、裁判の威信を著しく害したものである。

(適用した法令) 法廷等の秩序維持に関する法律第二条第一項

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例